まげのないお殿様にお目どおり

朝の掃除がすむと「そうだ父に電話しなくちゃ」
と思い出してダイヤルをした。
「あっ、おじいちゃん、わたしだけど……」
「うん」
「こんないい天気だから、またゲートボールへ行ったんでしょう。
だめよ汗で濡れたシャツは替えなくちゃ、風邪をひきますよ」
「うん」
「それでお夕飯はなにか希望はあーる?」
「ああ、冷たい素麺がいいなあ」
「はい、冷たい素麺ね。じゃ、あとでね」
受話器を置いて二、三歩離れたところで、
私は飛び上がってしまった。
スープの冷めない距離に独り住んでいる父にかけたつもりが、
うっかりしていた。
父はこの春先に亡くなっていたのだ。
つい長年の習慣でダイヤルをしてしまったが……。
あの父に似た声はいったい誰だろうか。
「まさか……」
私はふと背筋が寒くなった>>>
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あのとき父の物を処分して、
マンションの売却も電話も不動産屋にまかせてしまっていたので、
その後、どんな人が買ったのか、電話はどうしたのか、
私は聞いていなかった。
耳の奥に父に似た声が少々気にはなったが、
それも近所の奥さんたちが出入りしたりしているうちに、
忘れかけてしまった。
ところが夕方になって電話のベルが鳴った。
「あっ、おじゅんちゃん」
私はまた驚いた。
生前の父もよくそんなふうに電話をしてきていた。
「やっぱり!さっきのあなたがおじゅんちゃんでしたか!」
「ああ、けさほどは失礼いたしました。
つい父にダイヤルする長年のくせが出てしまい、
受話器を置いてから間違いをしたことに気がつきました。
でもあなたが父の声とよく似ていて驚きました」
「はあ、そうでしたか。私も駅前の不動産屋に
お宅のご事情は聞いていたので、たぶんそうではないかと
思っていました。あははは」
「それにしてもこちらの電話番号、よくおわかりでしたね」
と私は聞いた。
「ははあ、それは短縮ダイヤルの00に”おじゅんちゃん”って
書いてあってセットされていたから、
一度かけてみたかったんですよ」
そんなことを話していると、
ふと私は父がまだ元気で生きているように思えた。
そして、
「ご迷惑でなかったら、これから冷やし素麵持って伺いますわ」
と言ってしまった。
「いやぁ、僕も一日置きに手伝いの人は来ますが、
いつもは独り住まいの寂しい老人ですので大歓迎です」
と言って電話は切れた。
それから30分後、あの見慣れたブザーを押すと、中から、
「どうぞお入りください」という声がした。
ドアーのきしみも玄関のしみも以前のままで、
懐かしさと気楽さから中に入ると、
車椅子に乗った老人がいた。
顔を見て私は驚いた。
このごろあまり出なくなったが、
それは時代劇でよく活躍していた俳優のK氏だった。
びっくりしている私に向かって、K氏は急に口元をへの字に曲げると、
「そなたがおじゅんちゃんと申すものか」と言った。
私も慌てて床に座りなおすと、
「はい、お殿様、おじゅんにござります」
と両手をついておじぎをした。
顔を上げると、まげのないお殿様が笑いをこらえていた。
参考本:NTTふれあいトーク大賞(NTT出版)
「殿にお目どおり」


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