「野村ID野球」の始まりとなった先輩のひと言
野球に対しての理論には、一本筋がねの通っている野村克也さんです。
好き嫌いはあるでしょうが、この人は苦労人であるだけに、
選手たちを「野球人」として育成するのにも手腕を発揮しています。
野村さんは選手時代には、戦後初の三冠王に輝く実力派でもありました。
余談ではありますが、野村さんは南海ホークスにテスト生として入団。
三冠王3回の落合博満さんもドラフト3位でロッテに入団。
今をときめくイチロー選手にしても、ドラフト4位でオリックスに入団です。
他にも入団時、順位の低いドラフトから、
入団後、素晴らしいスター選手に育った人は数多くいます。
最初に不遇の時期からスタートし、
這い上がる過程で、大きくなっていく人たちであり、
この人たちはまた大きくなり方も破格のようです。
やはり、人は最初に恵まれた地位から歩むより、
不遇の地位から歩む方がより成長率が高くなるような実例です。
さて、野村さんのお話しですが、
野村さんと言えば「野村ID野球」です。
その「野村ID野球」が生まれたきっかけも、
不遇の時期がキーポイントでした。
野村さんの話です。
「日々コツコツ努力を続けるのは、確かに苦しくてつらい。
努力には即効性がないから、気持ちがくじけて続かなくなってしまうんですね。
しかし、努力をやめることは、イコール自分に負けること。
自分に負けて、相手との戦いに勝てるはずがありません」
南海ホークス入団3年目で一軍に上がり、
4年目でホームラン王。
自信をつかみかけた5年目あたりからだったでしょうか。
思うように打率が伸びず、野村選手はスランプに陥りました。
そんな時、悩む野村選手を見かねて、
ある先輩が声をかけてくれました。
いろんな四方山話をしながら、
ワルだったその先輩の学生時代のケンカの話しを聞いてる時でした。
先輩のある言葉が、妙に野村さんの頭にひっかったのです。
その言葉の中に「野村ID野球」の種が仕込まれていたとは、
当のご本人も気づく由もありませんでした>>>
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先輩の口走った言葉はこうでした。
「ぶん殴ったほうが忘れても、
殴られたほうは忘れてないぞ」
その言葉が、悩む野村選手にとっては、
どうしても頭の中で通過させるわけにいかず、
何か心に突き刺さるのでした。
ぐるぐる思いを巡らせるうちに、さすがは野村選手です。
はっと思い当たりました。
つまり、ヒットを打ったバッターはその打席について忘れても、
打たれたピッチャーは苦い記憶を忘れない。
「よし、次こそやり返す」と策を練っているということです。
それまで「なぜ打てなかったのか」
と自分ばかりを見ていました。
しかし、この言葉でストンと腹に落ちたのです。
そうか、相手(ピッチャー)の視点に立って考えてみようと。
スタッフに頼んで、相手投手が自分に投げた球種とコースの
すべての記録を出してもらいました。
そして、それを12種類あるボールカウント別に分析してみました。
たとえば、
「1ボール2ストライクの場面では、
どんな球をどこへ投げてくる確率が高いのか?」
といった具合に。
すると、野村選手、投手のクセや傾向が見えてきたといいます。
「ノーストライク2ボールのカウントの時は、
インコースの球は100%来ない」
といったことまでわかるのだから、相当に驚いたそうです。
傾向が分かれば、攻め方も変わる。
これが後に名付けられた「野村ID野球」の始まりでした。
要するに、ただ「頑張れ、頑張れ」という精神論の努力から、
データを踏まえた努力へと、努力の方向を変えたということです。
「才能には限界があっても、
頭脳には限界がないということが分かり、
野球ががぜん楽しくなりました」
と野村さんは述懐しています。
僕ら普通の人間に対しても、野村さんはこうメッセージを送っています。
「皆さんもスランプや努力が実らない焦りを体験することがあるでしょう。
そんな時は、チャンスの種が芽吹いている時かもしれません。
まずは、視野や考え方を少し変えてみる、
そこから新しい景色が見えてくるかもしれません」
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