人生は死ぬか、精一杯生きるかだよ

主人がくも膜下出血を発症し、
意識不明の状態で救急病院に搬送されたのは、
12年前のことだった。
病状がひとまず安定して、一般の総合病院へ転院したものの、
意識が戻るわけでもない。
主人が徐々に衰弱していくのに伴い、
私の希望の灯も消し去られようとしていた。
私は時折、病棟の一角にある談話室に身を寄せ、
患者たちの談笑に耳を傾けていた。
病室で主人と無言の時間を長く過ごす私にとって、
声と声の触れ合いは新鮮な風となり、
聴覚を優しく刺激してくれるからだ。
談笑の輪から少し離れた窓際の席には、
有名大学の入試問題集を片手に勉強に励む青年がいた。
その前向きな姿から力をもらい、
再び病室に戻るのが私の日課だった。
「年内はもたない」と言われた主人だったが、
何とか年を越すことができた。
元日、病院に着いた私は、主人の病院に行く前に
談話室へ直行した。
談話室は無人だった。
私は窓際の席に座り、晴れ渡った空を仰いで、
心に立ち込めた暗雲を必死で消し去ろうとしていた。
ふと気づくと、いつもこの席で勉強している青年が立っていた。
席を譲ろうとした私に、
青年は「いいですよ」と幼さの残る笑みを浮かべ、
別の席に座った。
「お正月まで受験勉強、偉いね」と声をかけると、
彼は「頭が悪いからね」と冗談交じりに答えた。
聞けば、まだ高校二年生だが、
入退院が多いため受験勉強を始めているという。
家が元旦から商売をしているので、
外泊をしなかったそうだ。
誰の見舞いかと聞かれ、私は主人の病状を話した。
「年を越せるとは思ってなかったの」
とため息交じりに呟くと、青年は急に表情を曇らせた。
そして、
「本人が必死で生きようとしているのに、
家族があきらめてどうするの」
と厳しい口調で言った。
意表を突かれた私は動揺を隠せず、
それを見た青年はあわてて謝罪の言葉を述べた。
その後に続く青年の言葉は、
さらに私の胸の深いところに刺さった>>>
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青年は、自分が医者から余命半年と言われているが、
「医者になる」という夢を病気なんかのために
あきらめたくはないから、命尽きるまで努力し続けるのだ、
と強い口調で語った。
「人生は死ぬか、精一杯生きるかだよ。
悲劇の真似ごとをしている暇はないからね」
そう言って、青年は去っていった。
私は電流が全身を流れるような感覚を覚えた。
微笑みようもない状況だが、
青年に暗さは微塵も感じられない。
無慈悲に襲いかかる宿命に対して、
彼はきっと、悲嘆の道を死にもの狂いで走り抜け、
受容し、そして挑戦へとたどり着いたのだろう。
無駄と知りつつも未来を見つめ、
熱心に何かに取り組むことができるかどうか。
それが人生の質を決めるのだと、
私は青年の生きる姿勢から教えられた。
私は急いで病室に行き、主人の胸に手を当てて鼓動を確認した。
青年が言った通り、主人は精一杯生きていた。
私は、白旗を掲げかけていたことを反省した。
たとえ望む結果が得られなくても、
今自分に出来る最善のことをしたい。
そう考え、主人の人生の最終章を笑顔で飾ろうと決心した。
その後も談話室で青年を見かけたが、私からは話しかけなかった。
青年の残された時間を奪う権利は私にはないと考えたからだ。
笑顔で会釈を交わす。
それだけで、充分心が通じ合ったように感じていた。
談話室に集う患者から、青年の不撓不屈の精神に
多くの患者が触発され、前向きに治療に取り組むようになったと聞いた。
病人にとって最良の薬は希望だ。
それを患者たちに処方した青年は、
すでに立派な医師だと私は確信した。
三カ月後、主人は静かに46年間の人生の幕を下ろした。
穏やかな表情だった。
青年の消息は分からない。
けれど、月日がたつほど、私の心の中で青年の存在が輝いてくる。
強き一念から発せられた言葉は、今も私の胸中に刻み込まれ、
彼の魂を蘇らせる。
青年は、私の心の主治医として永遠に生き続けるだろう。


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