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記念日にディズニーシーでの素敵な出来事

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婦そろって還暦を迎えた年の春。
私は主人を誘って、ずっと行ってみたかったディズニーリゾートを訪れました。

「ディズニーランドとディズニーシー、どちらがいい?」と聞くと、
「お酒が飲めないところなんだろう?
 行っても楽しめないんじゃないか」

行楽にはお酒がなくては始まらない、というタチの私たち。

「ならば、シーがよさそうね。シーだとお酒が飲めるのよ。
 それに夜景がキレイらしいから、食事をしながらゆっくり過ごしましょうよ。
 還暦のお祝いにディズニー!
 デートみたいで素敵じゃない」

「ふーん」

あまり気乗りしない様子の主人でしたが、
「おまえがそんなに行きたいというのなら」
と付き合ってくれることになりました。

「せっかく行くのだから、ホテルに泊まってゆっくりしよう」
主人からの嬉しい申し出に、ウキウキしながら、
アンバサダーホテルを予約しました。

当日、荷物を置いて身軽になってからパークを散策しようと、
まず、ホテルに向かいました。

エントランスの前では、制服をパリッと着こなしたドアマンの男性が、
にこやかに微笑んでいます。
「こんにちは。ディズニー・アンバサダーホテルへ、
 ようこそお越しくださいました」

さわやかな笑顔での出迎えに、私たちまで頬がゆるみます。

そして、流れるようなしぐさで荷物を受け取り、
「こちらへどうぞ」とフロントまで案内してくれました。

チェックインを済ませ、部屋に荷物を置き、
さあ、今日は一日楽しむわよ!とフロントに向かうと、
先ほどのドアマンが目に入りました。

そうだ。彼におススメのアトラクションやショーを聞いてみよう。

あの青年のセレクトだったら信頼できそうだわ。

思いついた私は、彼に話しかけました。

「私たちディズニーシーは初めてなの。
 どこかおススメの場所やショーはありますか?」

すると、青年はニッコリ微笑み、
「加藤さま、初めてでしたら……」
と私たちの名前を呼んだのです。

もうびっくり。

ディズニーが初めてなのですから、
当然、このホテルに宿泊するのも初めて。

なのに、顔を見ただけで、名前を呼んでくれるなんて……。

驚くなというほうが無理です>>>

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い微笑みを絶やさず、丁寧にアドバイスしてくれる
彼の顔をじっと見てしまいました。

どうやら主人も同じだったようで、
「……といったところがおススメでしょうか。ご参考になれば嬉しいです」

そう言い終えた彼に、
「ありがとう。参考にさせていただくよ」
とお礼を述べた後、間を置かずに、
「ところで、どうして我々の名前を知っているんだい?」
と質問しました。

まさか、そんな返しが来るとは思っていなかったのでしょう。
青年は、あわてた顔をして、
「あ、すみません!先ほどフロントにご案内させていただいたときに、
 受付の者が加藤さまのお名前を呼んでいたもので、
 つい覚えてしまいまして……。
 ご不快に思われたら、大変失礼いたしました」
と頭を下げます。

「いやいや感心したんだよ。
 私は仕事で全国のホテルをあちこち宿泊しているけれど、
 ホテルのドアマンの方から名前を呼ばれることなど、
 ほとんど無かったからね。
 毎日、たくさんの宿泊客が泊まるホテルで、
 いちいち名前を記憶して呼びかけるって、
 なかなかできることじゃないと思いますよ。
 そういう努力、
 こちらをもてなそうという気持ちが嬉しかった。
 ありがとう、和田さん」

「えっ!」

驚いているドアマンの青年に、
主人はいたずらっ子のようにクスリと笑いました。

その瞬間、彼の胸についている名札が、キラッと光ったような気がしました。

やるわね!さすがわが夫。

「じゃあ、行ってきますね、和田さん」

私も彼の名を呼び、
私たち夫婦の還暦記念日をスタートさせたのでした。

出典元:ディズニーシーであった心温まる物語
著:吉田よしか(あさ出版)

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