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「がっかり」が希望まみれの言葉とは?

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野(ますの)浩一という歌人の方がこんな短歌を作っています。

「がっかり」は期待しているときにだけ
出てくる希望まみれの言葉

この短歌の生まれた背景を、
枡野さんの手記からピックアップさせていただきます。

枡野さんは、高校生のとき、文芸部の部長でした。

文芸部は人気がなく、枡野さんが入部したとき、
三年生は受験で引退間近。

二年生が一人もいないという理由で、
すぐに部長になってしまいました。

一年生も数名いました。

一人でペンネームを沢山つくって、
文芸部で発行していた小冊子をいかにも多人数で
創作しているかのように見せていました。

小冊子の半分以上は枡野さんの作品だったそうです。

印刷や製本もほとんど全部ひとりでこなしました。

そんな枡野さんの頑張りが通じたのかどうか、
枡野さんの活動に興味を持つ仲間が、
一人、また一人と部員になってくれました。

しかし、皮肉にも新しく入ってきた部員と、
部活に関する考えが合わなくて、
部長なのに、枡野さん、退部することになってしまいました。

ある日、放課後の教室で、
クラスメートのKくんに話しかけられました。

Kくんは勉強も運動もでき、バンド活動もやっている、
クラスの中心にいる人気者です。

その正反対のポジションにいた枡野さん。
Kくんとはめったに話したことはありませんでした。

そのKくんが枡野さんに話しかけてきたのです。

「枡野君、文芸部やめたの?」

「うん」

「…がっかりだな。
 こんなこと言ったら悪いけど、
 枡野君から文芸部をとったら、
 何も残らないじゃん」

普通、こんなことを言われたら、
胸にグサッときます。ショックを受けますね。

しかし、枡野さんの感情は少し違ってました>>>

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野君から文芸部をとったら、
 何も残らないじゃん』

その言葉に、枡野さんはショックを受けたかというとそうではなく、
大変うれしかったと述べています。

まず枡野さんは、K君から指摘されたとおり、
「自分から文芸部をとったら何も残らない」
と心底思っていたので、
そのことを言い当てられた嬉しさでした。

もうひとつは、自分が文芸部の活動に打ち込んでいたことを、
K君のような人がずっと見ていてくれたんだ、
という嬉しさでした。

運動も勉強もできるK君にはバカにされているだろうと思っていたし、
自分ではK君のことをまぶしく見ていたけれども、
向こうに見られているとは思ってもみなかったからです。

枡野さんとK君とはそれ以来、接近の機会が増えたそうです。

数年後、枡野さんが歌人として本を出したり、
テレビに出たりするようになって、
久々に二人きりでお酒を飲むことがありました。

その再会がきっかけとなり、
自分の高校時代の経験を取り入れた青春小説
『僕は運動おんち』(集英社文庫)の出版にもつながりました。

その小説は、実際の枡野さんの高校生活よりかなり明るいとのことです。

そう描けたのは、大人の時間を生きてる自分が振り返った時、
暗かった高校時代を肯定していることのあらわれではないか、
枡野さんはそう述べています。

「がっかり」という言葉を肯定的にとらえたくなったのは、
そんなご自身の経験があったからでした。

最後に枡野さんが、やはりK君の生身の発言に触発されて、
作られた一首です。

ハッピーじゃないエンドでも
面白い映画みたいに よい人生を

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