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亡くなって10数年後、女房の気配がする

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房が亡くなっていつの間にか、
10数年が経過してしまった。

親類筋からも縁談を熱心に進められたものの、
なかなかその気になれなかった。

女房が亡くなった時に娘は2歳だった。

まだ物心つかない娘のためにも、
早く後妻をもらったほうが、
うまくいく、その話は理解できた。

しかし、むしろその娘のために、
選ぶ母親を慎重にならざるを得なかった。

不器用ながらも家事と育児と仕事を、
しゃにむにこなしているうち、
あっという間に時間は過ぎ去ってしまった。

娘にほぼ手がかからなくなったここ最近のことだ。

どうも女房の影がチラつくようになってきた。

というより、すぐそばに女房の気配を感じることがある。

昨日のことだった。

居間でソファに座り、
漫然とテレビを見ていたら、
後ろに女房がいる、そんな気配を感じた。

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ッとして振り向いたら、
そこには高2になる娘がいた。

あんまり勢いよく振り返ったので、
娘もびっくりした表情だった。

そこで、やっと気づいたのだ。

気配と感じていたのは、匂いだったんだ。
娘の匂いが嫁だった。

シャンプーと洗濯用洗剤とボディクリームが
混ざったような匂い。

匂いにも不思議な作用があるものだ。

匂いが鮮明に記憶を呼び覚ますことがある。

それでつい涙ぐんでしまった。

娘は心配して「大丈夫?」とこっちに来た。

「いや、大丈夫。それよりおまえ、いい匂いするな」
と私。

娘は笑いながら、
「なにいきなり。キモいじゃない。
 最近ボディクリーム変えたから、それ?」

それが女房と同じだった。

よく見たらシャンプーも同じだった。

どうしてそれを選んだのか聞いたら、
よく分からないけど、いい匂いでなんだか安心するんだと。

2歳でも母親の匂いは記憶に残ってるんだろうか。
そう思ったらまた目頭が熱くなってきた。

妻をあらためて思い出し、あわれになったこともあるが、
無意識に母親を求めている娘のことが可哀想で
胸に何かがこみあげてきたのだ。

それはママの匂いだよ、
と教えると、娘はちょっとビックリしてから、
微笑みながら「そっか」とだけ言った。

あらためて娘を見つめたら、
最近、確かに女房によく似てきた。

今度、ゆっくりと母親のことを話してやろうと思う。

父と母とが、どんなふうに愛し合い、
君という命が生れた時、ふたりでどんなに喜んだことか、
その幸福感だけは何としても克明に伝えよう。

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